書くしかできない

発達障害、神社仏閣、読書記録、日々のつぶやきを主に書いています。

「結婚の奴」能町みね子著

 

結婚の奴

結婚の奴

 

  著者は、能町みね子さん。

 能町さんは、男性で生まれたけれど女性になった方。大きく言えば、ゲイ、という事になるのでしょうか。1979年生まれ、この本を書かれたのは37歳頃。一人暮らしを20年以上続けられて、ふと思われた。結婚したい、と。

 とはいえ、恋愛結婚は出来ない(と決めておられる)。同じゲイの人と、友達関係で家庭を作れないか、と思っている矢先、男が好きな男性、サムソン高橋さんと出会い、結婚に至るのです。

 本書の面白さは、能町さんのPOPなキャラクターに負うところが大きいです。

 ただ、面白いなあと感じながら読めるのは前半だけで、後半はかなり重いです。というか、前半、能町さんは「面白いPOPなキャラター」という仮面をかぶって、書いていたのだと、後半に入って読者は気づきます。

 後半以降に書かれている能町さんの姿が、本当の能町さんなのだと分かるのです。大変に暗い。屈折している。それは、ゲイだから故に生じるあれこれだけではありません。能町さんは、40歳近くまで来て、まだ一度も人を愛した事がない。恋愛をしてみたいと、何度もトライしてみるのですが、どうしても「愛する」という事を実感できない。好きになる、という事すら分からない。能町さんは、自分自身をすら、好きになれない。例えば、一人暮らしで、自分の為にお茶を入れる、とか、自分の為に暖房を入れる、とか、そういう「自分を快適にしてあげる」事すら、しないのだそうです。したことがない。

 自分を含め、人を好きになる、という事が、どういう事か、能町さんには分からない。

 なのに、というか、だからこそ、というか、能町さんは、同じゲイの男性(能町さん自身が身体的性別は男性。性転換手術を受け、女性ホルモンを飲んでいて、見た目はすでに女性)と、結婚することにした。能町さんは、それを、「偽装結婚」と呼んでいますが、つまり、恋愛結婚ではなく、そこには性的意味合いは全くなく、ただただ「家族」が欲しい故なのです。

 能町さんは、そういう目的で「偽装結婚」を計画し、実行に移していきます。

 後半には、この結婚計画とは別に、ある人間関係が描かれます。人を好きになれない能町さんが、唯一好きかもしれない、好きというか憧れを感じる女性が現れたのです。女性ですから、恋愛ではありませんが、大変に憧れて、仲良く付き合っていた。こんな風に生きていけたらいいよね、と楽しく語り合っていた。その女性が、ある日、自殺するのです。能町さんは、打ちのめされます。荒れに荒れます。自分に見せていた彼女の姿は、偽物だったのだ、彼女は内面に死ぬほどドロドロしたものを抱えていたのだ、自分は彼女に裏切られた。。。ちなみにこの彼女は、そこそこ有名な作家さんなので、著書もあります。能町さんは、それまで彼女の本を読んでいなかったのですが、死後はじめて読んで、その病みの深刻さに更に打ちのめされます。

  それから、能町さんは、偽装結婚するのです。

 この本は、決して読んで楽しい本ではありません。むしろ、しんどい人が読むと、余計しんどくなるかもしれません。それほど、能町さんの闇は深いと思います。それでも、そこから何かを知りたいと思う方は、どうぞ読んでみられて下さい。

 書き忘れましたが、小説ではなく、実話です。