一番好きな作家は、黒川博行さんだ。理由は、とことんフェアだから。小説は作家のご都合主義で何でも書けてしまう世界だからこそ、読者に対してフェアである事が最も大事だと思う。フェアな上に、これ以上ないレベルで取材し勉強しまくった上で書いているところも好き。でも黒川さんの小説のクライマックスは人情で決まる。
黒川さんの小説では疫病神シリーズが一番人気だが、それ以外も捨てがたい。全てをお勧めしたいのだが、今回は一番新しい小説「悪逆」について書きたい。
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新しいと言っても去年の出版。黒川さんはけっこう遅筆な作家さんで、それだけ一作一作、取材研究に時間をかけておられるのだと思う。
「悪逆」は疫病神シリーズではない。特徴としては、とにかく長い。何故かと言うと、連続殺人がテーマだから。ある人物が4件、完全犯罪を行う。その1つ1つがものずごく緻密に描かれる。これなら絶対に捕まらないと読者は確信する。警察の裏をかくこんな方法があったのか!と驚かされる。
一方物語は警察側からも描かれる。1つ1つの殺人をありとあらゆる方法で捜索していく。犯人は誰かが分かっていないのだから、見当違いの方向に四方八方捜索はどんどん進む。そしてある瞬間、針の穴を通すように、小さい手がかりが引っかかる。
誰もそれが犯人に繋がる手がかりだとは知らない。でもそれすらも追っていく先に、少しづつ犯人に繋がる道が出来て行く。
犯人側から、そして警察側から、物語は両方の視点で進む。最初は大きく離れていた2つの視点が、ある時を境に少しづつ近づいていく。
しかし、どれだけ警察が犯人に近づいても、それでも犯人は捕まらない。捜査の死角を知り尽くしており、死角、死角を辿って逃げて行く。
なぜそんな事がこの犯人に可能なのか?その答えは勿論小説の中にしっかり描かれている。全ての人が、なるほど!と膝を打つだろう。
犯人は捕まるのか。捕まらないのか。
それは読んでいただかないといけないが、最期の最期、この小説の〆の部分、一番大事な部分もまた、人情なのだ。ある人が、大切なある人を守る為に、自身の信条をかなぐり捨てる。その場面はさりげなく、だからこそ見事だ。そしてそれがこの物語の〆。
計算され尽くした冷酷な連続殺人の結末が、人の心で決まった瞬間。
これが黒川博行のスタイルだが、実際の私達の生きる世界もこうなのか。私達の人生も最期の最期は人情で決まるのか。私達は計算で生きるのか、心で生きるのか。本書を読んだ後、しみじみ考えさせられる奥行のある小説だと思う。ただ長いので、、、。長すぎると思う人がいたらすみません。とりあえず「悪逆」より、「疫病神シリーズ」のほうが読みやすいと思うので、一式貼っておきます。個人的には「国境」が好きです。
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