書くしかできない

発達障害、神社仏閣、読書記録、日々のつぶやきを主に書いています。

「ブルー」葉真中顕著

 

Blue

Blue

 

  表紙の絵が怖かったのでカバーをかけて読みました。なかなかの大作で、何度も唸りました。ネタバレしてしまうかもしれませんが、最小限に抑えつつ書きます。

 主人公のブルーは、平成が始まる日(1989年1月8日)に生まれ、平成が終わる日(2019年4月30日)に死にます。これは、主人公の人生を通して、平成の時代30年と四カ月に渡る日本を、うまく描き切った小説だと言えます。

 ブルーは極貧家庭の子供で、シングルマザーの母親は定住所を持たず、その場限りの生き方をします。ブルーに対して虐待も行います。そして、当然のように大きな事件に巻き込まれ、まだ子供であるブルーは絶対絶命の危機に陥ります。彼がその危機を、どうやって乗り越えるのか、どうやって生き抜くのか。それがこの本の軸となって描かれています。

 一方で、児童虐待、子供の貧困、そして外国人労働者など、格差社会の実態が、次々と描かれていきます。特に小説後半に描かれる外国人労働者の話は、読み応えがあります。

 余談ですが、この本を読んだ直後に、現実に、イギリスでベトナム人の出稼ぎ労働者を満載に乗せたトラックが見つかった、という事件が起こりました。ベトナム人25名は全員、トラックの中で亡くなっていたそうです。出稼ぎ労働におけるトラブルが、何かあったのだろうと推測されていました。見も知らぬブローカーに自分の命運を預けてベトナムから先進国に出てくる人達、何故彼等がそんな愚行(と思える)に走るのか、その理由が、この本には書いてあります。まさにこの本は、時代をそのまま描き切っていると言えるなあと思い感心しました。

 平成という時代の様々なアイコンも登場しますし、主な事象は全て網羅されていると思います。ああ、平成ってこんな時代だったな、と思いだしつつ読みました。そして、読み終わった後、平成が積み残した闇の深さに慄きました。

 読んで楽しい本ではありませんが、考えさせられる本ではあります。また、シンプルにミステリーとして読んでも一流だと思います。作者は大藪春彦賞を始めとし、数々の賞を受賞された実力者です。