書くしかできない

発達障害、神社仏閣、読書記録、日々のつぶやきを主に書いています。

「護られなかった者たちへ」中山七里著

 今日は読書記録になります。少し前に、このブログを読んで下さっている方から、勧めて頂いた本です。いつにもまして、ネタバレの可能性のあるレビューになりますので、ご注意ください。すみません。

 テーマは、「日本では、生活困窮者が生活保護を申請しても通らない事」です。場所は仙台。

 日本全国で、生活保護申請が通りにくいという事実は変わりませんが、震災のあった仙台では、自治体の予算が減っている事と、生活困窮者が増加している事で、他の地域より更に、生活保護申請のハードルは高くなっています。

 この本は、生活保護の申請者側と、申請を許可するかどうか決める行政側の、二つの視点から書かれています。

 申請者側の主人公は、かつて申請を断られたことで餓死した老婆に世話になった人物で、元受刑者。行政側の主人公は、生活保護を担当する福祉事務所課長。

 事件は、この福祉事務所課長の怨恨死から始まります。警察の捜査で、その課長は人間的に素晴らしい人物だと周囲から評価されている事が分かってきます。敵などいるはずがないのに、誰が彼を殺すほど恨んでいるのか。警察は、課長の仕事を追い、生活保護申請の実態に迫っていきます。

 一方、この本では、元受刑者についても、その人物像が多くのページを割いて丁寧に描かれています。

 ここまでで、福祉事務所課長を殺したのは、その元受刑者に違いない、と読者は思います。お世話になった老婆を餓死させたのは、福祉事務所課長が生活保護を通してくれなかったからだ、それを恨んで殺したのだ、と。

 でも、本書の最後の最後で、どんでん返しがあります。そういう意味では、ミステリーとして読んでも読みごたえのある本です。

 ただ、この本はあくまで、生活保護を扱った社会派小説だと思われます。

    というわけで、テーマに沿って少し個人的意見を書いてみると。

 日本の福祉予算の9割が、高齢者対策に使われているという事は、以前このブログでも書きました。高齢者以外の福祉対策には、残り1割しかまわってこないので、この国では生活保護なんかにまわす予算はほぼ無いのです。どうしてそうなっているのかというと、やはり選挙に行かない人が多いからでしょう。政策を決めているのは政治家で、政治家を決めるのは国民ですから。高齢者は選挙に行くので、どうしても政策は高齢者寄りになります。

 それと、自分は生活に困窮しない、自分は障害者にならない、自分は怪我も病気もしない、と思っておられる人が多い為に、福祉予算の多くが高齢者対策に使われても不安に思わないのだと思います。自分は、生活困窮者にはならないから、生活保護予算が少なくても構わない。でも高齢者にはなるから、高齢者対策をしっかりやってくれるほうが良い、という感じでしょう。

 こういう本が出て、生活保護に対する問題を知っても、じゃあ次の選挙ではよくよく考えて投票しようと思う人は、あまりいないのではないでしょうか。いたとしても、実際に投票に行く人は、少ないのではないでしょうか。

 結局は他人事。だから現状は変わらない。そんな冷めた事を考えてしまいました。他の方は、どんな感想をお持ちになるのでしょうか。

 とても面白い本でした。ご紹介下さった方には、お礼申し上げます。有難うございました。