篠田節子さんは、多分、私が一番好きな、女性作家さんです。ちなみに、一番好きな男性作家さんは、黒川博行さんです。
夏休みになって嬉しかったので、何故か読んでいなかった、篠田さんの「弥勒」を、今更ですが、読んでみました。
文庫で出たのは2019年なので、少し前の本です。
いや面白かった。篠田さんの本の中では、あまり評価が高くないのが、不思議です。
内容は、主人公の男性が、パスキムという国(ヒマラヤのほうの、架空の小国)に、仏教美術を探しに行く、というもの。
仏教美術?と言われると、なんかイマイチピンと来ないなと思って読み始めたのですが、これ、実際は冒険小説です。仏教美術あんまり関係ない。
パスキムという、ある種未開の地、他文明の入っていない国へ、しかもちょうどクーデターが起きて国自体が滅茶苦茶になっている状態の時に、主人公はのこのこ出かけて行ってしまうのです。
そして、案の定というか、捕虜となって掴まってしまい、日本に帰れなくなる。
捕虜と言っても、強制労働させられるわけではなく、パスキムの他の庶民と同じように暮らさせられるのですが、この暮らし方というのが、日本ではありえない過酷さで。なんせクーデター直後なので、国自体が滅茶苦茶なので。
主人公は、もともとは新聞社の学部員で美術方面に教養が高く、奥さんも著名な文化人で、それはもう意識高い系の生活を送っていました。が、パスキムで捕らえられた以降は、犬以下のような暮らし。朝早くから夜遅くまで肉体労働し、食事は麦の粉。地べたで寝る。病気になっても医者はいない。クーデター後、国を仕切っている人間は、「完全平等社会」を謳って、あり得ない理想郷を目指し、国を破滅させていく。主人公にはそれが間違いだと気づいていても、指摘するすべがない。
主人公は、無事にパスキムから脱出できるのか。
完全平等社会を目指すと、何故、人は不幸になるのか。
神仏は、それを信仰している人間を、救ってくれるのか否か。
手に汗握る、というようなレベルではなく、分厚い本を一気読みです。
宜しければ、ぜひどうぞ。