書くしかできない

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BS1ドキュメンタリー「欲望の貨幣論2019」

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 大好きなBS1ドキュメンタリーで、今回も面白いものをやっていました。「欲望の資本主義特別編、欲望の貨幣論2019」です。

 貨幣はそもそも、物々交換の不便さを解消する為に発明されたもので、貨幣があれば何にでも交換できるという「自由」を、人間に与えるものでした。

 が、貨幣を貯める事が、手段ではなく、貯める事自体が目的になっていきました。そういう「いつでも何にでも変えられる保証的な安心」を、少しでも多く得たいというのが、そもそもの人間性なのだそうです。

 「だが、貨幣の本質というのは、結局のところ投機である」と、番組の中心となる語り部、岩井教授は語ります。他の人が受け取ってくれるという予測のもとに、自分も人から貨幣を受け取るという事を、教授は「自己循環論法」と呼びます。つまり、貨幣の価値は国や社会が支えているのではなく、ある意味、無根拠である、と。

 「貨幣には本質的な価値はない、だから、貨幣が「硬貨や紙幣のようなモノ」である必要はない、だから貨幣のデジタル化記号化が進んでいる現状は、自然な事だ」と教授は語ります。

 確かに今現在、キャッシュレスが進み、貨幣の代わりに「情報(データ)」が、使われる時代になりつつあります。硬貨もしくは紙幣という「物」である貨幣が消え、数字の羅列である「情報(データ)」が貨幣的役割を果たす時代になりつつある。

 岩井教授はそれを危険視しています。

 何故なら、全てがデータ化される事によって、人間の存在自体が数値化され、管理されてしまうからです。でも、数値化できないもの、不安定なものを、残しておかないといけない、と岩井教授は言います。数値化できないもの、不安定なものが、逆に経済を安定化させるのだと。全てを数値化し合理的に無駄を省いてしまうと、経済は逆に不安定になり、極端から極端へと大きく揺れ、結果、世界が不安定なものになってしまう。

 不完全なもの、数値化できないもの、不安定なもの、非合理的なもの、が、皮肉にも経済に安定をもたらし、逆にそれらが一定数ないと、経済は安定しないのだそうです。

 でも、貨幣が消え、データのやり取りだけで経済活動が回ってしまうと、全てが数値化されてしまう事により、経済は極端に不安定になって、破滅へとひた走ってしまう。

 岩井教授が特に強調して語っておられたのは、以下のことです。

「データのやり取りだけで経済活動が回ってしまうと、全ての物がデータ化されてしまう。全ての事をデータ化するということは、人間一人一人を全てデータ化してしまう。という事。でも、データと違い、貨幣での経済活動は、人間に匿名性を与えてくれる。匿名という事は、人間が他の人に評価されない領域を持っている、という事。これは重要。自分自身の領域を持っているという事が、人間の自由。他人が入り込めない余地、そこが人間の尊厳の根源になる。経済活動を貨幣で回す事が、人間の尊厳を担保してくれるのだ」

 

 GAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)と呼ばれるデジタル巨大4企業の売上げは、ドイツのGDPを超えたのだそうです。これは歴史上例のない事で、更に4大企業への富の集中は、加速しているのだそうです。

 貨幣が消え、消費経済がデジタルデータで回るようになったら、私達の全てが4つの企業に把握され、それをもとに私たちは4大企業に生活を左右され、思考を左右されるようになるでしょう。ひたすら4大企業の利益を増やす方向の為にのみ、経済活動は動くでしょう。

 経済活動がデータ処理で回ってしまうと、匿名性を維持する事は不可能になる、つまり、貨幣は個人が匿名性を維持する為に不可欠なものだ、という事になります。そして、匿名性というのが、個人の尊厳を担保するのだ、という事も、番組を見てよく理解できました。

 デジタルデータ社会になると個人の尊厳が消えてしまう、という理由について、番組ではこんな話が紹介されていました。

 1900年代前半のアメリカの新聞で、こういう実験が行われた、と。それは、「美人投票」という形で行われました。

 新聞紙面に、20名の女性の顔写真が掲載され、「あなたが一番美人だと思う女性に投票して下さい」と書かれていました。但し「もしあなたが、一番獲得票数が多かった女性に投票していたら、あなたには賞金が与えられます」という条件が付いていました。

 人々は、自分が「この女性は美人だな」と感じる女性に、ではなく、「みんなが美人だと思って投票するだろう女性」に、投票しました。

 つまり。この美人投票で一番になった女性は、本当に人々から美人だと思われた女性ではなく、人々が「みんながこの人に投票するだろうと思われた女性」なのです。

 デジタルデータ社会でも、同じ事が起こります。個人の本当の意見は、そこには反映されないのです。「個」が消えるのです。

 

 私は日常生活で、カードはできるだけ使わないようにしています。多少損になっても、現金で払いたいのです。ネットでの買い物は絶対に代引きか銀行振り込みだし。何故自分が今までそうしていたのか、その理由が自分でもよく分かっていなかったのですが、この番組を見て、ああそういうことか、と思いました。つまり、自分の消費活動の全てをデータ化されたくない、という事です。データ化されない部分を自分の中に持っていたい、という事だったのだなと分かりました。そしてその事を、「人として尊厳」岩井教授が語っていて(もとはカントの言葉だそうですが)、そうなのか、と思いました。

 番組中、面白い話が沢山あったので、もし再放送があれば、宜しければご覧下さい。