書くしかできない

発達障害、神社仏閣、読書記録、日々のつぶやきを主に書いています。

「ブラックボックス」篠田節子著

 夏休みという事で、篠田節子さんを集中的に読み返しています。

 今回は、「ブラックボックス」。今回はかなりネタバレ有りです。 

  文庫初版が2016年です。テーマは「食」。場所は、日本の地方の小さな町。主人公は同級生3人。40代の男女。東京で派手に活躍した後失脚し、職を失い田舎に戻ってサラダ工場で深夜勤務する栄美。農家だった親の死後、相続で田畑を兄弟で分けた事などから農業に行き詰まり、ハイテク農業に勧誘されてしまった剛。東京で結婚・離婚し、田舎に戻って栄養士になった聖子。

 剛のハイテク農場で作った野菜を、栄美のサラダ工場で一食ごとにパック詰めし、聖子の働く学校給食で子供達が食べる。

 ハイテク農場は屋内で無菌に完全管理されている為、農薬を使わない、安心安全と謳われているにも関わらず、子供達に原因不明のアレルギー等の疾患が激増する。また、深夜のサラダ工場で働く海外から来た技能実習生達の間でも、原因不明の疾患が激増する。流産する者、癌になる者まで出てくる。貧しい技能実習生達は、3色サラダ工場の野菜を食べていた。ハイテク農場は、剛だけではなく、この小さな町の農家が、次々と採用していき、町のスーパーには、町のハイテク農場で作られた野菜が並ぶ。そして、子供達だけでなく、大人もまた体を壊し始める。

 何かおかしいと気づいた3人は、原因を追究し始める。

 剛は、ハイテク農場のLEDランプの光量が、少しづつ減って来ている事に気付く。目で見ても分からない微量な経年劣化だ。しかし、完全管理されている野菜にとっては、その劣化が、光量不足となって現れる。何がどうなるのかと言えば、肥料として与えられている窒素を、完全には使いきれず、硝酸態窒素として自身の中に含んでしまうのだ。硝酸態窒素は単体では毒物ではないが、人間の体内で他の物質と反応する事で、酸欠を引き起こしたり、発がん性を帯びたりする。しかしそれを、ハイテク農場の本部に訴えても、対処的な対応だけで終わり、剛自身は経営から外される。

 また、栄美は、サラダ工場で出荷前の野菜に、うま味やビタミンを補充する目的で、プレドレッシングという名の液体をふりかけている事に気付く。この液体の原料を極秘で調査するものの、「うま味成分」は食品添加物ではない為、表示義務がなく、原料を突き止める事が出来ない。うま味成分は、タンパク質(を分解したアミノ酸)なので、タンパク質であれば、何からでも作れる。廃棄物や、何かの生き物の皮や骨、毛、腐ったものからでも作れる。サラダ工場のプレドレッシングの原料は、中国から仕入れたものだ、という所までは判明したものの、その原料は分からず不安だけが残った。

 健康を害する人間が激増していく町。でもその原因は誰にも分からない。3人は懸命に追及するが、行き詰まる。町民のうち、裕福な者たちは、町から出ていく。

 さすがに結末は書けませんが、「お、そう来たか!」というエンディングでした。面白かったです。さすが、篠田節子、というほかない。

 この本を読んだ後、スーパーのカット野菜等を見るたびに、不安な気持ちになります。うま味成分に品質表示義務がない事も知らなかったので、うま味成分が大量に入ったもの(インスタントラーメンとか)は、怖くて買えなくなりました。と言っても、たまには買いますが、以前ほどは買わなくなりました。

 それと、食とは関係ないのですが、本書に出て来た「海外からの技能実習生の実態」が、けっこうショックで。1日12時間働かされて、アパートの一部屋に大人数で詰め込まれて、工場とアパートとの往復だけで。お給料は月数万円。仕事は深夜勤で、寒い工場で冷たい野菜を洗ってパックに詰める、延々同じ事を繰り返し12時間。休日なし。

 それでも、日本で働いてお金を稼ぎたい、という外国人達が絶えないというのは、なんとも言えず、貧困について考えさせられました。