書くしかできない

発達障害、神社仏閣、読書記録、日々のつぶやきを主に書いています。

「グッドバイ」朝井まかて著

 朝井まかてさんの「グットバイ」を読みました。 

グッドバイ

グッドバイ

 

  朝井まかてさんの著書を初めて読んだのは「悪玉伝」。嘘でしょと思うぐらい面白かったので、続いてその当時の最新作「落花狼藉」を夢中で読みました。二作とも大当たりだったので、この「グッドバイ」も面白いだろうと読んでみたら、やはり感動が凄かった。

 普通、レビューを書く時は、ネタバレに注意を払わねばならないのが難しいところ。私はけっこうネタバレぎりぎりを書くので、「ここまで書いちゃったらネタバレですよ。ルール違反」みたいなお叱りをコメントで頂く事があります(すみません、、)。とはいえ、漠然と「面白かった、感動した」だけ書いても、読まれた方には何も伝わりませんから不親切かなあと思うのです。せっかく時間をかけて読んで頂くのだから、自分がどの部分に感動したのかぐらいは、分かるレビューにしたいなと。

 その点、今回の「グッドバイ」は、歴史上の人物が主人公なので、あらすじはすでにネタバレしていると言えば言えるわけで、とても気楽に書けます。

 主人公は、茶葉貿易で活躍した実在の女性、大浦慶。舞台は長崎。時代は幕末から明治にかけて。

 お慶(主人公)は、長崎の油屋(油を専門に売る商店)に生まれます。お慶が生まれた頃はすでに、油屋という商売自体が徐々に斜陽化しつつありました。その上、お慶が18歳の時、店の近くで大火事が起こり、お慶の家も店もほぼ全焼。入り婿でもともとがだらしなかった父親は、後妻とその子供と共に、火事に紛れて逃げてしまいます。

 残されたのは、焼けた残骸と、従業員達と、わずか18歳のお慶だけでした。

 そこからお慶の快進撃が始まるわけです。お慶は、油屋再建に奮闘する一方、油はもう斜陽だと割り切り、当時まだ闇取引だった、海外貿易が出来ないかと画策します。それも油ではなく、茶葉を海外に売り出せないか、と。

 幕末とはいえ江戸時代ですから、鎖国中です。海外貿易の間口はごくごく狭く、幕府の承認がないものは、貿易する事はできませんでした。貿易するには許可が要ったのです。勿論、一介の油屋であるお慶に、そんなものはありません。

 お慶がどうやって、海外貿易を実現していったのか。オランダ、イギリス、そしてアメリカと販路を広げ。それも、畑違いの茶葉で。ここがまず、この本の第一弾の読み応えある部分です。お慶の不屈の負けず魂。勇気。知恵。根性。日本人ならではの矜持。胸躍らせずにはいられません。

 同時に、日本の昔からの商人寄り合いの古さ、頑固さもまた、浮彫りにされます。完全に油屋をやめるまで、お慶はそれに苦しまされるのです。

 この本の第二弾の読みごたえ部分は、幕末の武士達が大勢出てくる事です。坂本龍馬近藤長次郎、大熊八太郎(大隈重信)、岩崎弥太郎(後の三菱創建者)、などなど。お慶は彼等を裏から支えた人物なのです。特に、近藤長次郎切腹事件は、読んでいて胸をえぐられる思いがしました。坂本龍馬も死に、一方で、大熊八太郎がものすごい出世をして、晩年のお慶を支えます。

 ところが、順風満帆だったお慶は、大がかりな詐欺にひっかかり、財産を全て失った上に、大きな借金を負う事になります。明治初期の時代、六千円という負債を抱える事になります。裁判に奔走し、売れるものは全て売り、髪をとく櫛まで残らず売り、信用を失った状態で商売を続けねばならない、でないと借金を返せない、地獄のような時期をお慶はなんとか踏ん張ります。

 そして、そこを超えた頃に、お慶のところにやって来たのは、火事の際に逃げてしまった父親でした。金の無心と、老後をお慶の世話になろうという腹で。お慶をそれを受け入れ、父親が連れて来た腹違いの弟を、自分の後継ぎにまでしてやるのです。それには事情がありました。この部分が本書の読み応え第三弾となります。古い価値観でお慶を縛ろうとしていた(お慶にはそう見えた)番頭の弥右衛門が、まさに「長崎の男ここにあり」という人物であったということ。お慶だけでなく読者もここで、深く考えさせられます。

 人生の後半、お慶はもう一花咲かせます。この部分が読み応え第四弾。いやいや、なんと清々しい人物でしょう。長崎弁で書かれた会話も、良い味を出しています。世界の中での日本の位置、日本人というものについて、色々考えさせられる本でもあります。

 

 最初にも書きましたが、この著者の「悪玉伝」「落下狼藉」も面白いです。この著者は外れなしです。いやすごい。 

悪玉伝

悪玉伝

 

  

落花狼藉

落花狼藉