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「子は親を救うために『心の病』になる」高橋和巳著(その2)

 

子は親を救うために「心の病」になる (ちくま文庫)

子は親を救うために「心の病」になる (ちくま文庫)

 

  前回の続きです。

 今回は、この本のテーマの<3>心の成長の仕組み。最終的に辿り着く所とは。について書きます。(ちなみに、このテーマ分けは私が勝手にやりました。本書の目次はこういう分け方にはなっておりません、、、)

 さて。

 <3>心の成長の仕組み。最終的に辿り着く所とは。

 著者によると、心の成長とは、以下の発達段階を経て完成するとのことです。⑤を省きどの段階も、親との関係を軸に展開するそうです。

①乳幼児期・・親から生き方を学び吸収する時期。子の見ている世界は親と同じ。

②学童期・・・①に同じ。

③思春期・・・①を土台にして親から自立する時期。子は親と違う視点を持ち始める。

④成人期・・・この世界での生き方を身に着け完成させる時期。子は親と同等になる。

⑤宇宙期・・・心がこの世界(社会、地球等の概念)を抜け、違う心の持ち方を得る。

 

 ①~④は一般的に心理学で言われる発達段階で、⑤のみ著者オリジナルのものです。今までの心理学では、心の発達は④の成人期で終っていました。

 ですが、著者は初めて「宇宙期」というものを設定しました。その理由を簡潔にまとめると、以下になります。

*成人期の後に、大人になるプロセスで削ぎ落して来たものを復活させ、成人期とは違う心が生れる現象が起こる。人生を振り返り、その先に存在する死を予測し、自分の人生とは何なのかを自問し答えを見出そうとする過程で、「それ」が起こる。(注:「それ」とは宇宙期の心持ちのこと)

*①~④の心の発達は、「普通の親子関係」が存在して初めて可能である。よって、普通の親子関係が持てなかった子供は、通常の①~④の心の発達をしない。そういう子供は、普通の人とは全く違う視点からこの世界を理解している。彼等は独自の心理発達をする(①´~④´というような)。ある程度安定し完成している④に比べ、④´は不安定で空疎感に満ち不完全なものなので、彼等はなんとかしてどこかその先に到達せざるを得ない(④´に留まっていると、いずれ心の病になる)。その到達点として⑤の想定が必要となる。

 

 本書を読むと、普通の心理発達を経た人の全てが⑤の宇宙期に到達するわけではなく、④で終る人も多いようです。そういう人達が不幸なわけではなく、普通の人達にとって、宇宙期はオプションのようなものだそうです。普通の人達にとって、普通の心理システムの中で幸せな人生を閉じてもいいし、どうしても虚空が知りたくて、⑤へ進んでいく人もいる。

 一方、普通ではない心理発達をした人達は、宇宙期へと進む可能性が高い。彼等の心理システムは不完全なゆえに、長く苦しんできたからこそ、人間存在の核、その最後の幸せである⑤へと向かう力が強い。

 

 では、⑤の宇宙期とは、どういうものなのでしょうか。この本では、後半かなりのページ数を割いて、この宇宙期について説明しています。ポイントだけかいつまんで書きたいのですが、その前に、心理システムの土台について本書より抜き書きします。

 ・・・・・(本書より抜粋)・・・・

 人が人生に求めているもの。それは心理システムの土台を作っているものであり、生きることの源にあるものである。だから、逆に単純なものである。

 第一レベルは、「安心」である。不安を避けて、安心していたい。心のもっとも基本的な欲求だ。

 それから、第二レベルには、「愛情」と「お金」と「賞賛」の三つがある。先に述べたように、優しい家族、恋人や愛情、仕事の業績や達成感、お金、人に褒められる、賞賛される、あるいは、人とのつながりや社会的な名誉・・・と、年齢や場所や人間関係によっていろいろ形を変えて現れるが、これら三つにまとめる事ができる。

 基本的にはこの四つ、「安心」と「愛情」・「お金」・「賞賛」を求めて人生は出来上がっている。逆に言うと、これ以外には、人が人生に求めるものはない。求めて人生を楽しみ、得られて満足し、失って落胆し、手に取れずに苦しみ、手に入れて喜び、失って悲しみ、もう一度頑張ろうと思い、もうだめだと断念し、やっぱり満足して安堵し、しかし期待と違ってがっかりして、人は生きていく。

 それこそが「普通の」人生なのだ。

・・・・・・(抜粋終了)・・・・・

 

 つまり、普通の親子関係があり、よって普通の心理発達①~④を経た普通の人は、上に抜粋したような普通の人生を送ります。が、普通の親子関係を持てなかった人達(以下、彼等と書きます)は、上に抜粋したような普通の人生は送れません。

 彼等は何が「普通と異なる」のか。

 彼等には、二つの人達がいると、前回書きました。第一に、発達障害を持つ親に育てられたて子供達。第二に、虐待を受けた子供達、です。

 前者は、親との共通の「感覚」がありません。子供は、美味しい物を食べて「美味しいね」と親に言ってもらってはじめて「美味しい」という満足感を感じます。これがないと、この食事は人間的に、社会的に、喜ぶべき事態なのか、あるいは、ただの普通のできごとなのか、その結論が出せません。出来事の強弱がなくなり、すべてが並列になります。美味しい物を食べて親と一緒に喜ぶという体験は、人と共感する原点で、それが人間関係を作る土台となります。自分の体の喜び、自分の感情が、社会の共通の基盤である心理システムに繋がって行きます。でも、親が「美味しいね」と言ってくれないと、「美味しいから満足、嬉しい、良かった」という体験は人間関係の中で確認できないままぼんやりとしてしまい、やがて消えていきます。世界との関係が希薄になるのです。

 こんな風に、親に障害がある子供達は、人との繋がりを確信できないまま大人になってしまう。そうして、彼等はふわふわしたとらえどころのない存在感の中で生きる。孤独ではなく「孤立感」の中で、世界と透明なガラスで遠ざけられた感覚の中で生きるのです。この世界との関係を持てない、自身に対して希薄な存在感を抱えて生きる、善も悪もないあいまいな世界で生きる、それが障害を持つ親に育てられた人の特徴です。

 

 もう1つ、親に虐待を受けた子供達の場合は、少し異なります。彼等は「悪い親」を持ってしまったけれど、その親は安定して「悪」でした。だから子供は、こ世界の手がかりとして、「悪」を知る事はできた。そして、それを手掛かりに「善」もあるのだろうと希望を持つことができた。彼等もまた「美味しいね」とは言ってもらえなかっただろうけれど、でも、目の前の親から身を守らねばならないという圧倒的なリアリティーの中で、彼等は食事の満足を確信し、人とのつながりを感じていました。

 ただ、彼等が普通の人と異なる点は、善と悪が逆転しているところです。

 人は誰でも生きていこうとする。その為に実行することが「善」である。だから、子供にとっては、目の前の「悪い親」に耐えることが「善」であり、その逆に、耐えられずに逃げ出す事が「悪」となる。つまり、悪に耐える事が「善」で、善を求めるのが「悪」である、こういう普通の人とは善悪が逆転するのです。善悪が逆転した心理システムで生きていると、悪に耐えていると心は安定し、善を求めると不安になる。この心理パターンの完成が、虐待された人の④´です。これが虐待の連鎖を産むのですが、今は少し置いておきます。ここで大事なのは、この人達も、普通の心理発達段階を経ない、という事です。

 

 彼等とて、人生が「安心」「愛情」「お金」「賞賛」で出来ているのは同じなのです。ただ、成人期に到達する心理発達が、普通の④ではなく、普通とは異なる④´である、ということ。

 障害がある親の元に育った人達は、自身に対して希薄な存在感しか持てない成人期に到達し、虐待されて育った人達は、善悪が逆転した心理システムを持った成人期に到達します。

 いずれも、生きづらい事に変わりはなく、生きていくのに多くの問題を抱えていきます。それをなんとかする為に、彼等は著者のクリニックに相談に訪れ、様々なアプローチを受ける中で、少しづつ変わって行きます。

 そして最終的に彼等が到達する心理段階が、⑤の宇宙期、なのです。

 また、この宇宙期は、普通の心理発達をしたきた人達の中にも、到達する人がいます(しない人もいます)。

 つまり、普通の心理発達をした人達も、普通ではない心理発達をし人達も、同じ場所に到達する、という事です。それが、宇宙期です。

 

 では、この宇宙期とは、一体、どういう心理段階なのか。

 これは実は、とても一言で説明できるものではありません。本書でも、後半まるごとかけて、1つ1つの臨床ケースを基に説明されています。非情に概念的で、キッパリ一言で言いきれるものではないのですが、それでも、無理やり書いてみます。

 宇宙期とは、皆と一緒に生きている感覚を一度閉じて、心理システムから離れる。これが入り口である。宇宙期にいると、どうしても人との義務感やストレスを感じ「この世界(成人期)」に戻る。でもまた、宇宙期に戻る。また成人期に戻る。しばらくこの往復運動が続き、両方がバランスをとってくると、宇宙期が出来上がる。 

 宇宙期とは、自分がただ「ある」という瞬間を得ること、社会の中で生きながらも、社会から離れることができるし、社会を楽しみながらも、社会に頼らずドライに生きることもできる。

 人は確実な自分の死を予測して、自分の生きてきた「生」とは何か、人はどこから来てどこへ行くのだろうか、と深く考える。その時に、自分が生きて来た社会的な存在感を離れ、「存在」を直接生きようとする。生きている、から、ただの「ある」へと変わるところ、その場所が「宇宙期」である。

 

 すみません。本書を抜粋しながら、私なりにまとめてみましたが、うまくまとまらなかったような気がします、、。しっかり知りたいと思われる方は、どうぞ本書をご一読下さい。たくさんの臨床ケースが書かれているので、ご自身に近いものがあるかもしれません。

 ではでは、長くなりましたが、ご紹介記事、これにて終了致します。有難うございました。

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