書くしかできない

発達障害、神社仏閣、読書記録、日々のつぶやきを主に書いています。

「ドレス」藤野可織著

 藤野可織さんの「ドレス」は、不思議な小説です。 

ドレス

ドレス

 

  短編集です。一つひとつのお話の出だしは、とても日常的な感じで始まります。

 例えば、お気に入りのパーカーについて、その色やデザインの説明から入るお話「テキサス、オクラホマ」、華奢なイケメンアイドルグループのライブ映像に興じるOL「マイハートイズユアーズ」、植物には午前中の光がいちばんいい、という文章から始まる「真夏の一日」。

 出だしは日常的な世界なので、油断してふんふんと気軽に読み進んでいくと、途中から少しづつ違和感が広がってくる仕組みになっています。でも、その違和感は、とても小出しなので、相当読み進まないと、決定的な違和感には到達せず、決定的な違和感に到達した時点ではもう読者は、引くに引けない異空間に、入り込んでしまっているのです。

 この小説、強いて言えば寓話の一種かな、と思いますが、そこまで説教じみてもいず、むしろ残酷なほど現実的なのです。そう。現実世界の残酷さを、押し進めていって、限界を越した向こう側の世界を描いている、そんな感じなのです。

 真夏の昼下がり、怖いモノ見たさで手に取ってみられるには、うってつけの一冊だと思います。面白いです。