書くしかできない

発達障害、神社仏閣、読書記録、日々のつぶやきを主に書いています。

ねえ、何してるん?

 家の近所の公園では、桜が満開で、花見をする人達が沢山来られている。ビニールシートに座り、お弁当を食べておられる方々も多い。小さいお子さん連れのお母さん方の姿も見られる。花見が何かも分からぬくらい幼い子達が、それでも、きれいに敷かれたシートの上にちょこんと座り、渡された御握りをしっかりにぎっている姿には、心を打つ何かがある。お仕事のお昼休みにランチがてら来られた人達や、ゆっくり絵を描くご老人や、若い女性の一群や、さっさとお弁当を食べてサッカーを始める学童や、公園はいつにも増してにぎわっている。

 そんな中を、私はスーパーの袋をぶら下げて、家に向かって歩いていた。

 公園の隅に、桜ではない、一本の木がある。その木に向かって、一人の若い男性が、シャドーボクシングをしているのが目に入った。キックボクシングかもしれない。とにかく、ボクシングの練習を、一人黙々とされていた。パーカーのフードを深くかぶっているので、顔は見えない。

 ほんの少し離れた場所では、桜の木々の下で、和やかでにぎやかな人の花見の輪があるその同じ公園で、たった一人で木に向かっているその青年は、少しだけ寂しそうに見えた。もちろん、本人は寂しくもなんともなかったのかもしれないが、私は勝手にそう感じてしまった。

 ら。お弁当を食べるのに飽きたらしき3才くらいの男の子が、キックスターターに乗って、ボクシング青年のほうへフラフラやって来た。男の子は、ボクシング青年の真後ろで止まると、しばらく青年を見てから、青年に向かってこう言った。

「ねえ、何してるん?」

 最初、青年は、集中していたせいか、男の子の声に気が付かなかった。無視された形の男の子は、まったくめげる事なく、繰り返し言った。

「ねえ、それ、何してるん?」

 何度目かの問いかけに、やっと青年は男の子の存在に気づき、驚いたように振り向いた。

「え。えーと。運動、かな」

と、青年は答えた。男の子は、青年をまっすぐ見上げながら、

「そうなんや。ふーん」

と言った。言った後も、まだ珍しそうに、青年を見ている。そこへ、男の子の友達らしい同じ3才ぐらいの女の子が、やって来た。女の子も、青年を眺める。男の子は、女の子のことは気にせず、ボクシング青年に話し続ける。

「何でやってるん?」

「どうやってやるん?」

青年は、相手が幼児という事もあり、無下にもできず、とまどいながらも、答えてやっていた。男の子がシャドーボクシングの真似をすると、女の子がその真似をした。そこへ、母親らしき女性もやって来て、あっという間に4人の輪ができた。さっきまで孤独に木に向かっていた青年は、頭をかきながらも輪の中心になっていた。

 だんだん手の中のスーパーの袋の重みが堪えてきたので、私は公園を後にして、家に戻った。冷蔵庫に買ってきた食品を詰めた後、思い出して、窓から公園を眺めてみた。

 青年のいたあたりを見てみると、さっきの青年はまた一人になり、木に向かってボクシングの練習をしていた。が、パーカーは頭から外していて、なんだか楽しそうに見えた。あくまでも私の主観だけれど。

 いろんな花見があるなあ、と思った。本当に今年の春はあたたかくて気持ちいい。

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  この公園、夜には、高校生ぐらいの子達が花見をしている。別にライトアップされているわけでもないので、薄暗い中でだ。音楽をかけたり騒いだりもせず、わりと静かに楽しんでいる。大人の目から離れた自分達だけの時間。こういう花見もいいなあと思う。