書くしかできない

発達障害、神社仏閣、読書記録、日々のつぶやきを主に書いています。

風はろうそくの火を消すが、炎を燃え上がらせる

 ナシーム・ニコラス・タレブ著の「反脆弱性」を読んでいます。読んでいます、というのは、まだ上巻しか読んでいないから。

 

  相変わらずの読みずらさで。枝葉と脱線だらけの文章は、永遠に結論に到達しないというタレブ節炸裂のこの本。何度も心が折れながら、なんとか上巻を読み終えました。しんど。

 タレブといえば「ブラック・スワン」で有名ですが、不確実な時代をどう生きるか、というのが、彼の著作の一貫したテーマ。今回の著作では、「反脆さ(もろさ)」という造語を新しくテーマと掲げています。

 「反脆さ」とは、「脆さ」の真逆に位置するものだ、とタレブは語っています。一般的には、「脆さ」の逆は「頑健さ」「耐久性」などでしょうが、「反脆さ」は、「頑健」を超越している、と彼は言うのです。

 なぜなら、「反脆さ」は、衝撃を利益に変えるから。変動性、ランダム性、無秩序、ストレスにさらされると、成長・繁栄するものだから。無機的なものと有機的なものとの差は、反脆さがあるかどうかだ、と彼は指摘しています。反脆さの仕組みを理解すれば、不確実な環境のもとで、予測に頼らずに意思決定できる、と彼は言うのです。

 「反脆さの仕組みを理解すれば、、、」って簡単に書いているのだけれど、これがまあ、一言で言ってくれないから困るのですよね、タレブさん。本書は上巻だけでも、みっちり400ページ(字は極小)。400ページ読み終えた今分かった事は、結論いまだ書かれておらず、ということ(苦笑)。

 それでも、はしばしに「うっ」と唸らせる表現があり、それをてこになんとか全体像を理解していく仕組みにはなっていると思われます。例えばタイトルのような表現。「風はろうそくの火を吹き消すが、炎を燃え上がらせる。つまり、ろうそくの火は脆いものであり、炎は反脆いものだ」

 反脆さの仕組みについては、下巻を読破してから改めて書くこととして、この上巻で記憶に残ったエピソードを一つだけ書いておきます。ちなみに、タレブの著作はエピソードが山のように出てきて、それのどれ一つとっても同じレベルで面白いのが凄いなと思います。で、まあ、アトランダムにその中から一つを挙げます。

 デブのトニーの話。

 1991年1月。アメリカがバクダットを攻撃し、湾岸戦争が始まった。当時、頭のいいアナリスト達は、戦争が起きれば原油価格が上昇するだろうと予測していた。だが、トニーはその因果関係に疑問を持った。

 「誰も想定していない時に戦争が起きれば、原油価格が高騰するだろう。でも、この戦争は、すでに想定されている。みんな、この戦争で原油価格が高騰するのに備えている。つまり、戦争を想定した価格になっているはずだ」彼は、湾岸戦争原油価格は暴落するほうに賭け、大金を稼いだ。戦争が報道されると、原油価格は1バレル39ドルからその半分近くまで下落したのだ。トニーは、投資額を30万ドルから1800万ドルに増やした。

 彼いわく、「戦争で原油価格が高騰する事はあっても、想定された戦争となれば話は別だ。価格は期待に沿って動くからだ。『もう戦争は織り込み済みのはずだ』」。

 多くの人が、戦争を正しく予測しておきながら、原油価格の暴落で無一文になった。彼等は、原油価格と戦争を、同じティングだと思っていたからだ。実際には、過剰な買いだめ、過剰な備蓄が起こり、結果、「原油は市場に豊富に存在する事を全ての人が知る事となった」ため、逆に原油価格ば暴落した。

 中東で戦争が起こる=原油価格が高騰する、ではない。方程式から離れて、単純な事実を見るようにする事。物事を複雑な手法やまやかしの知識で考えない事。これが反脆さを持つ、という事だ。

 「中東で戦争が起こる」から、原油価格が高騰するのではない、という事。「原油が無いと人々が思うから価格が高騰する」のだ。想定された戦争では、人々はすでに原油を「備蓄している」。備蓄している事をみんなは知っている。つまり、原油は「有る」と人々は知っている。であれば、戦争が起こっても、原油価格が高騰するはずはない。

 反脆さを身に着けるには、「理屈」ではなく、「人間の実際の行動」を細かく確実に追って考える、事が重要なのだろうと、このエピソードを読んで私は思いました。

 中途半端ですが、ここで終わります。