書くしかできない

発達障害、神社仏閣、読書記録、日々のつぶやきを主に書いています。

今日一日だけ、の祈り

 幼児期の発達障害児を、どう育てるのか。手をかければ親がつらい、手を抜けば子供がつらい。これは発達障害児を持つ親の、永遠のジレンマかもしれません。勿論、健常児さんでもある程度は言える事でしょうが。

 ある発達障害児のお母さんがおられます。

 お子さんは、自閉及び知的障害を含む発達障害児で、保育園や幼稚園には通えません。よって、療育園に通っています。

 療育園には千差万別あり、保育時間、保育内容、保育スタイルなどが、園によって大きく異なります。

 その方はお子さんを、短時間の、自由保育の、広々とした環境で、子供の数の少ない、優しい先生方のおられる療育園に通わせています。ただ、週に一日だけ、終日保育(8時間)の、カリキュラムの厳しい、狭くて子供の多い厳しい先生方の療育園に通わせています。

 お子さんは、短時間の自由保育の園は大好きで、上機嫌で通っておられます。が、終日保育の厳しい園は嫌いで、行くのを嫌がって泣き叫び、他害のない子なのに、その園に行く時だけはお母さんを叩いて嫌がるのだそうです。

 お母さんも、できれば子供が嫌がる園には行かせたくないものの、長時間保育をしてくれる園はそこだけなので、その日がお母さんの「息抜き日」となっています。

 お父さんは仕事に忙殺されており、週末も頼る事ができない為、お母さんは完全なワンオペで、その子を育てているからです。

 彼女は、毎回、泣いて嫌がる子を、厳しい園に連れて行くたびに、これでいいのかと悩まれるそうです。でも、優しい園のほうは、数時間しか預かってくれない為に、送り迎えの時間をいれると、お母さんの自由時間はあまりとれません。週に一日の息抜きの時間を、彼女は手放したくないのです。

 彼女はどうすべきか。あなたならどうされますか。

 AかBか、単純に決められる問題ではないだろうなあと、私は思います。

 発達障害児にとって、幼児期をどう育ててもらうかは、その後の成育に大きく影響します。しかしながら、とてつもなく育てにく幼児期の発達障害児を、親切丁寧に育てる事は、本当に「大変なこと」です。

 その「大変なこと」を、誰がやるのか。

 母親が一人でやろうとすると、母親がストレスで潰れてしまいます。かといって、対処が難しい発達障害児は、健常児と違って、どこにでも預けられるというわけにはいきません。発達障害児を預かってくれる場所は、少ないです。

 「大変」だからこそ、預けたいのに、「大変」だからこそ、預け先がない、のです。

 子供に無理をさせるのか。母親が無理をするのか。

 単純な二択ではなく、どちらもがギリギリやれる際を探って、見つけて、その日その日を乗り切るしかありません。

 上のお母さんの例なら、その厳しい園に、毎週連れていくのではなく、2週に1回とか、3週に1回とかに減らし、その分子供の負担を軽くする、という方法が現実的解決かなと思います。勿論、今のまま週一でもいいわけですが、普段は穏やかな他害のない子供が、泣いて嫌がり他害するというのは、相当な事です。子供はSOSをはっきりと出しているのだから、ある程度はそれに応えてあげたいと私は思います。でも、親自身のストレス解消の日も確保する必要は絶対にあり、そこのところのせめぎあいで、なんとかお互い我慢できるラインを探るしかないと思います。

 親としては、そんな探り合いみたいな面倒な事はやめて、行かせるなら行かせる、止めさせるならやめさせるで、ハッキリしたいところだと思いますが。幼児期の子育てをあまりはっきりと割り切ってしまうのは、危険だと私は思います。

 割り切っているお母さんで、子供がうまく育っている例を私は知らないからです。

 息子が小さい頃に通っていた様々な療育先には、様々なお母さんがおられましたが、割り切っているお母さんは、「私は子育てが苦手だから、子育ては外注するのが子供の為でもある」と仰り、日中は保育園に、自宅ではベビーシッターに子供を任せ、療育先だけ自分が連れて行く(療育はお母さんの為の教育も含んでいた為)、という感じでやっておられました。そういう方、そこそこおられました。お子さんは、それほど重い障害ではなく思えたのに、年々他の子との成長に差が出ていました。情緒的にも身体的成長も知的成長も。

 親からしたら「子育ては100%外注」と決めてしまったほうが、気持ちの上でラクだとは思いますが、やはりそれにはリスクが伴うなと見ていて思いました。逆に、知的にも自閉傾向も強いけれども丁寧に育ててもらったお子さんで、今だに言葉は出ないものの、とても穏やかに育ちあがり、これなら地域に問題なく溶け込んで生きていけるなあと思える子もいます。子育ては親次第、という言葉を忌み嫌う人も多いですが、これは事実だと私は思います。

 私自身の子育てを最後に書いておくと。日中は幼稚園と療育先を半々な感じで利用し、それ以外の時間は私が世話しました。過去記事にも書きましたが、過酷でした。

 最近、高校生になった息子に、こんな事を聞かれました。

「お母さんは小さい頃の僕を育てるの、大変だったんだよね。すごく大変だった?」

「うん、本当に大変だったよ」

「死んだ方がマシとか、思った?」

「うん、毎日、死にたい死にたいって思ってたよ」

「どうやって頑張ったの?」

「自分にね、『明日死んでもいいよ。明日なら死んでもいいから、今日一日、今日一日だけ頑張ろう。今日一日だけなら頑張れるよね。今日一日だけ』って、言い聞かせてたの。それを毎日毎日繰り返してたら、いつの間にか小学生になってたよ。小学生になったら随分ラクになった」

「そうか。それ、僕もやろうかな。しんどくてもう頑張れないって時に、『明日死んでもいいから今日一日だけ頑張れ、自分』って思ったら、頑張れそうな気がする」

「うん、そうだね、でもしんどい時は、お母さんにも言ってね」

「分かった」

こんな会話でした。

 あんなに大変だった子が、ここまで成長したなんて、嘘のようです。しんどい子育てはいつかは終わる、とはよく言われますが、事実です。自分を騙し騙し、なんとか乗り切った先に、「あー頑張って良かった」と思える未来が必ずあると思います。

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