書くしかできない

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「隷属なき道」ルトガー・ブレグマン著

 ルトガー・ブレグマン著の「隷属なき道」を読みました。副題に「AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日3時間労働」とあったので、面白そうだなと思って。 

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

 

  この「ベーシックインカム」も「3時間労働」も、もともとは著者が以前から言い続けてきた事だそうです。当時は誰も耳をかさなかったそうですが、今はこの話を提唱する人が増えてきています。私も最近ちょこちょこ耳にしていました。

 ベーシックインカムというのは、全ての福祉を止め、その代わり、全世帯に一律、150万円づつ配る、というもの。本当に貧困の底にいる人には、福祉の手が届かないから、というのがその根拠。

 また、一日3時間労働というのは、AIによって仕事量を減らせるからこそ実現する、という話で、「AIがはびこると職を失うのではないか」と考えるのではなく、「AI活用によって、自分の仕事量を減らせるから、今までは8時間かかっていた仕事時間が、3時間に減らせる」という風に考えるべきだ、というものです。

 どちらに対しても、徹底的な検証が行われており、説得力はありました。が、これが実現するのか?といえば、著者自らが書いているように「空中に城を建てるようなもの」で、実現は難しいのが実情だと思います。

 じゃあ、この本、読む必要ないのね、というわけでもなく、具体的で様々な経済状況が沢山書き込まれているので、読むだけで自らの仕事への知識をアップデートできます。そういう風に読めば面白いと思います。

 あと、本筋とは全く関係ないのですが、「認知的不協和」という言葉と、それに付随するエピソードが書いてあるところが、個人的には大変興味深かったので、そこを抜粋させて頂きます。

 ・・・・・・(抜粋開始)・・・・

 レオン・フェスティンガーは、「信念を持つ人を変えるのは難しい」と述べている。「君の意見には同意できない、とこちらが言えば、その人はそっぽを向いてしまう。事実や数字を見せても、相手はその出所を疑うだろう。論理的に説明しても、相手にはその要旨が理解できない」と。

 「認知的不協和」という言葉は、フェスティンガーが作った。自分が深く信じる事と現実が対立すると、私達は自らの世界観を改めるより、現実を再調整するほうを選ぶのだ。のみならず、それまで以上に頑なにその世界観を信じるようになる。  

 もっとも、私達は現実的なことについては、かなり柔軟だ。例えば、油染みの取り方やキュウリの刻み方についての助言なら、喜んで受け入れる事ができる。だが、政治、イデオロギー、宗教に関する自らの信念がかかっている場合は、きわめて頑固になる。刑罰、婚前交渉、あるいは地球温暖化については、自分と異なる意見には耳を貸そうとしない。それに関して持説を翻すと、アイデンティティーや教会、家庭、あるいは友人の輪といった社会集団における自らの位置づけが揺らぐからだ。

 この事を述べたフェスティンガーの著書「予言がはずれる時」(1956年刊行)は、今日まで社会心理学における影響力の強い教科書となっている。

 ・・・・・・(抜粋終了)・・・・・

 「認知的不協和」に関しては、こんなエピソードが書かれています。

 「1954年12月21日に大洪水が来て世界は滅亡する」と予言したある主婦と、その信奉者達がいました。シカゴ郊外に住むその主婦は、わざわざ新聞に「惑星クラリオンからの予言。全市に告ぐ。12月21日に我々を襲う洪水から逃れよ。外宇宙から郊外の住民に告ぐ」と投稿したのです。

 この主婦は、外宇宙の「優れた存在」から、メッセージを受け取ったと主張していました。また、自らとその仲間たちは、その「優れた存在」が空飛ぶ円盤で迎えに来てくれて洪水から逃れられる、と主張していました。

 主婦は、その後も刻々とメッセージを受け取り続け、いわく「なんじらは、12月21日の真夜中、駐車している車に乗せられ、ある場所に運ばれ、そこで空飛ぶ円盤に乗り込むことになる」などなど。

 21日の真夜中、主婦とその仲間たちは集まり、新たなメッセージを待ちます。

 21日、午後11時15分、主婦は「皆にコートを着て準備するように」というメッセージを受け取りました。

 21日、午後0時、予言の21日は終わりましたが、何も起こりません。メッセージも来ません。

 22日午前4時45分、主婦は新たなメッセージを受け取ります。「神は地球を救うと決断された。信者の小さなグループがこの夜、非常に多くの『光』を広げたため、地球は救われたのだ」と。

 著者は、「この主婦とその仲間たちをあざ笑うのはたやすいが、この「認知的不協和」は、誰にでも起きる可能性がある」と書いています。

 また同時に、「反対する一人の声が、全てを変える事もある」と著書は書いています。

 「集団の圧力がかかると、人は自分の目で見ているものが見えなくなる。集団の人達が同じ答えを出すと、それが明らかに間違っていても、人はそれを間違いだと気づけない。でもその集団の中に、一人でも真実を語る人がいれば、人は自分の目で見た事を信じる可能性が高まる」。

 「突拍子もないアイディアが、実は世界を変えてきたし、再び変えるだろう。実際のところ、アイディア以外に、世界を支配するものはほとんどない」

 ベーシックインカムや3時間労働など、突拍子もないアイディアを言い続けてきた著者。これらが世界を変える日が本当に来るのでしょうか。。。

 ともあれ。「認知的不協和」日常的によく見聞きする事です。多分、私もやっているのだろうなあ、、と思ったので、興味をひかれ、書き残しておきました。

 とっても面白い本でした。分厚くてみっちりの内容なので、お時間のある時に。。