書くしかできない

過ぎていく日々を書き留めています

「黙約」ドナ・タート著

 久しぶりに読書記録を書きます。

 今日は、大好きな作家さんの一人、ドナ・タートについて書きます。

 彼女は、アメリカ・ミシシッピー州生まれの女性作家。1964年生まれ、という事で、ほぼほぼ私と同年代。20歳の時に書き始め28歳で完成した「シークレットヒストリー(日本では『黙約』と改題)は、いきなり全米ベストセラーに。また、「ゴールドフィンチ」はピューリッツァ賞に輝きました。あとは「ひそやかな復讐」等も有名。寡作な作家さんです。 

黙約(上) (新潮文庫)

黙約(上) (新潮文庫)

 

 

ゴールドフィンチ1

ゴールドフィンチ1

 

 

ひそやかな復讐〈上〉 (扶桑社ミステリー)

ひそやかな復讐〈上〉 (扶桑社ミステリー)

 

 ちなみに、ドナ・タートは村上春樹さんと知己があるとか。村上春樹さんは、カズオ・イシグロとも仲がいいという話は有名ですが、この3人、確かに共通する何かがある気がします。表面に出てくる作風は各々異なりますが、芯に流れている人生観が似ている気がする。しいて言えば、厳しく突き放した諦観、というようなもの。人生を決して美化しない、むしろ最初からどこか諦めている。にも関わらず、読後に心に残るのは、我が人生に対する激しい愛しさだったりするのです。勿論、私は3人とも大好きです。

 「黙約」について少し書きます。

 アメリカ東部バーモント州の私立大学に通う6人の学生のお話です。私自身、バーモント州の私立大学に通ったので、懐かしく思いながら読み進めました。が、彼等の環境は、まったくもって普通ではなかったのです。彼等は、4年間、たった一人の教授のもとで、たった一つの科目「古代ギリシャ語」だけを学びます。大学システム上あり得ないこんなイレギュラーな事が許されるのが、アメリカの私立大学ならでは。

 美しいバーモント州の緑あふれる古い建物と森。桁違いに裕福な若者達と、これまた桁違いに貧しい若者達が、そこで濃密に絡み合います。美とは何か。恐怖とは何か。突き詰める中で起こる死。殺人。追い詰められていく精神。神とも父とも慕っていた教授の真の姿。

 結末は誰しもが納得するものだと思います。

  本文から少し抜粋します。

「家の中は空っぽで、なんの気配もない。外に出てようやくポーチの日陰にいるフランシスとバニーを見つけた。バニーはTシャツにバミューダショーツ。アルビノめいた白い顔をまだらのピンクに染め、ぴくぴく痙攣するまぶたを固く閉じたフランシスはホテルから盗んできたテリークロスのみすぼらしいローブを着ている。二人は二日酔いに効くという味付きの生卵を飲んでいた」

 なんという事のない場面ですが、ここが実はストーリーの鍵となる部分だったのだという事が分かるのは、かなり先まで読んだ後です。沢山の付箋、丁寧な描写、未知の常識、慣れ親しんだ心模様。村上春樹ファン、もしくは、カズオ・イシグロファンの方にはまちがいなく、面白いと感じられる小説だと思います。